99.9.11 ジャビルカ通信 第112号

99.9.11 ジャビルカ通信 第112号

■パリ会議決定文書(改訳版)

国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会 決定

世界遺産委員会第3回特別会期(カカドゥ国立公園問題を審議する臨時会)
1999年7月12日 パリ(ユネスコ本部)
1. 本委員会は、

(a)  1972年ユネスコ世界遺産条約の第4条、第5条、第6条、第7条および第11
条の重要性、とりわけ第6条第1項が下記の通り定めている点を強調する。

  文化遺産および自然遺産として登録された遺産に対しては、それらを領土内に
  おさめる国家の主権を十分に尊重しつつ、かつ、国内法の定める所有権を損な
  うことなく、国際社会全体が協力してそれらを保全する義務を負うことを、本
  条約の加盟国は認識する。

(b) 世界遺産委員会第22回会議(京都1998)が、カカドゥ国立公園に対してジャビル
カでのウラン採掘・製錬事業計画がもたらす確定的および潜在的な脅威について「深
い憂慮」を表明したことを想起する。

(c) ビューロー(幹事国会議)第23回通常会期(パリ1999)および第22回臨時会期(
京都1998)での審議の結果、「世界遺産条約履行のための作業指針」第3部(とりわ
け第86段)の規定【注参照】にもとづき、カカドゥ国立公園の状況について今後とも
真剣な配慮が必要であるとされたことに留意する。

(d) ジャビルカ鉱山の坑道建設工事を本委員会第23回会期まで自発的に停止するよう
にとの本委員会第22回会議での要請が満たされなかったことに対し、強く不満の意を
表明する。

(e) カカドゥ国立公園の生きた文化価値に対してジャビルカ鉱山の採掘・製錬事業計
画がもたらしている深刻な影響について、深く憂慮する。ジャビルカでの採掘・製錬
計画に関連する諸問題を解決するためには、対話を通じての信頼関係の醸成がきわめ
て重要であると本委員会は考えるものである。とりわけ、オーストラリア政府とジャ
ビルカ鉱区の伝統的土地所有者であるミラル・アボリジニーの人々とのあいだに、こ
れまでよりも実質的で継続的な対話がなければならない。

(f) ジャビルカの文化遺産管理計画の準備がまったく進展していないことを憂慮する。

(g) ジャビルカにおける採掘と製錬に科学的な不確実性については、ひきつづき慎重
に判断を保留せざるをえない。
2. 本委員会は、

(a) オーストラリア政府、オーストラリア政府科学監視機関、ユネスコの公式諮問機
関(IUCN, ICOMOS, ICCROM)、および国際科学者連合協議会 (ICSU) が設置した独立
科学者パネル (ISP) が、本委員会第22回会議(京都1998)での要請に応じて、それ
ぞれ報告書を提出したことを感謝するとともに確認する。

(b) ジャビルカ・ウラン鉱山と製錬所に関する諸問題をめぐって、ミラル・アボリジ
ニーの人々とオーストラリア政府とのあいだで新たな対話が始まったことを示す兆候
がみられることを認める。本委員会は、そのような対話こそがカカドゥ国立公園ユネ
スコ現地調査団によって提起された諸問題を解決するための建設的な第一歩として不
可欠であると考える。

(c) オーストラリア政府が、ジャビルカ鉱山が最大生産量に達する時期をレンジャー
鉱山の生産量が減少する2009年まで延期し、したがって両鉱山が同時に本格操業する
ことがないようにする、と文書で述べた点に留意する(世界遺産委員会公式文書99/C
ONF.205/INF.3G「カカドゥ国立公園の保全」オーストラリア政府提出)。ジャビルカ
において計画されている採掘および製錬事業に関して、エナジー・リソーシズ・オブ
・オーストラリア社(ERA)のような民間企業の活動がカカドゥ国立公園の世界遺産
としての価値を損なわないように規制するのは、オーストラリア政府の明確な責務で
あると本委員会は考える。

(d) オーストラリア政府の監督科学局 (ASS) が、国際科学評議会 (ICSU) が設置し
た独立科学者パネル (ISP) の報告書を査読した結果、ジャビルカ鉱山での採掘と製
錬に関する科学的に未解決の問題点を解消するためにISPとの対話を求めていること
に留意する。
3. 上記 1. および 2. に鑑み、本委員会は、この問題に関するオーストラリア政府
の対応の進捗状況を今後もひきつづき監視し評定していくものである。それゆえ、本
委員会はオーストラリア政府に対し、下記の事項についての進捗報告を2000年4月15
日までに提出するよう要請する。その報告内容は、世界遺産委員会ビューロー(幹事
国会議)第24回通常会期において審議するものとする。

(a) ジャビルカ鉱区ならびにボイウェッグ・アルムジ聖地とその周辺地域の文化遺産
の分布状況の調査の進捗状況、および文化遺産管理計画策定の進捗状況。これらの作
業にあたっては、ミラルの協力を必要条件とし、かつ、その他の利害関係者および国
際記念物遺跡会議 (ICOMOS) と文化財保存修復国際センター (ICCROM) の適切な関与
をうるものとする。

(b) カカドゥ地域社会影響評価研究(KRSIS)の成果をふまえ、北部準州政府との協
力のもとに実施されるべき、カカドゥのアボリジニー社会(ミラルを含む)に益する
ような総合的な社会・福祉対策の進捗状況

(c) レンジャー・ジャビルカ両鉱山の並行操業にともなう合計採掘量と事業規模の調
整のための、法的規制をも含めた、具体的措置に関する厳密な詳細
4. 独立科学者パネル (ISP) の報告書で提起された科学的争点をはじめとする未解決
の事項を解消するため、本委員会は国際科学者連合協議会 (ICSU) に次のように要請
する。すなわち、ISPを存続させ、必要ならばメンバーを追加したうえで、オースト
ラリア政府監督科学局 (ASS) および国際自然保護連合 (IUCN) との協力のもとに、I
SP報告書に対するオーストラリア政府監督科学局の反論報告書の内容を評定すること
。ISPはその評定結果は2000年4月15日までに世界遺産センターに提出するものとし、
その内容は世界遺産委員会ビューロー(幹事国会議)第24回通常会期において審議す
るものとする。

 

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【翻訳】細川 弘明(ストップ・ジャビルカ・キャンペーン事務局)
【注】「世界遺産条約履行のための作業指針」第3部第86段は次のように定めている。

  危機に瀕する世界遺産リストへの登録を考慮するに際しては、世界遺産委員会は、
  当該加盟国との協議のもと、まず危機を回避するための改善措置を可能な限り速や
  かに計画し採択するものとする。

「当該加盟国との協議のもと」という文言は、条約加盟国の主権を尊重したものであ
るが、これを、危機遺産指定にあたって当該国(ジャビルカ開発問題の場合はオース
トラリア)の同意を必要とすると解釈するか、必要無いと解釈するかは玉虫色であり
、京都会議においておおきく議論のわかれた点であった。今回のパリ会議においては
、決定文書において明言はされなかったが、当該国の同意を必要とするとの解釈にま
とまったと言える。これは世界遺産条約の実効性のおおきな後退とみなさざるをえな
い。(細川)
■細川コメント

* 京都会議に輪をかけて分かりにくい(評価しずらい)玉虫色の決着です。先送り
、すなわち積極的保全措置(危機遺産指定など)の欠落ですから、おおかたの環境保
護団体は今回の決定を、カカドゥ保護運動にとってな敗北とみなしています。オース
トラリアのマスコミも、国連がジャビルカ開発を容認、オーストラリア政府の勝利、
というトーンの見出しで伝えています。関西電力の広報担当の課長さんも危機、いや
、嬉々としていたそうです。

* 国際自然保護連合(IUCN) などユネスコの公式諮問機関は一致して、カカドゥ国
立公園を危機遺産に登録し、ジャビルカ開発の完全中止・撤回するよう求める報告を
提出していましたが、その勧告は結局、この文書に反映されていません。世界遺産委
員会がIUCNの勧告をこれほど無視したのはユネスコ始まって以来のことです。今後の
世界遺産保護のありかたに暗い影をおとすことになるかも知れません。

* とはいえ、オーストラリア政府が開発工事の18ヶ月間停止と採掘スケジュール
を大幅におくらした点は、政治的裏交渉の産物とはいえ、それなりの成果です。ジャ
ビルカ現地の放射能汚染は、とりあえず回避されました。1年半の遅れ(そして本格
採掘時期の4~8年の遅れ)は、経営の苦しいERA社にとって、もしかすると致命
的な結果をもたらすかも知れません。これまでの莫大な投資の回収がそれだけ遅れ、
また、その間にウランの買い手はますます減る一方なのですから。

* アボリジニーとの交渉をオーストラリア政府に強く促している点(決定文書の1e,
1f, 2b, 3a, 3b項)について、グンジェイッミ先住民族法人の事務局長ジャッキー・
カトナは高く評価し、政府にミラルの主張を認めさせる透明な回路が保証された、と
しています。しかし、悪くすると不透明な裏取り引きでの事態決着をはかる口実を政
府に与えかねないという側面もあります(細川私見)。オーストラリア政府が、国連
に対して、アボリジニーとよく話し合います、てな約束をした本当の狙いは、アボリ
ジニーと環境保護団体の分断をはかるだろうと考えられます。

* グンジェイッミ先住民族法人は、「条件闘争には転じない。ジャビルカ鉱山はけ
して操業させない」と繰り返し表明しています。とりあえずは、そのことを信じて、
環境保護団体とアボリジニーとのあいだに生じてしまった乖離感、不信感を解消して
いくべく試みるべきでしょう。
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