2000.11.30 ジャビルカ通信 第134号
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┃ ジャビルカ鉱山の操業計画に安全宣言 ┃
┃ ┃
┃ 文化遺産保全計画をめぐる交渉では ┃
┃ オーストラリア政府とアボリジニーが決裂 ┃
┃ 世界遺産委員会は失望を表明、今後の交渉に ┃
┃ 国際社会の介入の必要性を明記 ┃
┃ ┃
┃ IUCNは、地元民への健康被害の可能性は ┃
┃ 否定できない、と声明 ┃
┃ ┃
┃ 環境団体は、オーストラリアが国際条約の ┃
┃ 意義を理解していないと批難。 ┃
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世界遺産会議、第3日(29日)の様子をお伝えします。
カカドゥ問題については、9:45am-11:20am, 12:05-12:15, 1:15pm-1:30pm 合計してちょうど120分におよぶ議論がなされました。途中で、議長国であるオーストラリアが「この問題にだけあまり時間をかけるわけにいかない」と何度も討議打ち切りを示唆しましたが、発言を求める国がやまず。それでも、傍聴している者としては、十分議論されたとの印象は持ち得ませんでした。
結論から先に書きますと、
(A)自然生態系への悪影響については、現在示されている鉱山設計と操業方法を守るかぎり、ほとんど無視しうる影響しか生じない、とする科学者報告を委員会は了承。
(★細川註:現実には、レンジャー鉱山のように、設計と操業法がなし崩しに変更されることは間違いないので、あまり意味のない評価です。)
(B)今後生じる変更にあたっては厳密な事前評価が必要で、それについては独立した評価委員会を設立してモニターする。
(つまり、オーストラリア政府の安全宣言をそのまま承認はしない、ということで、これは評価できます。)
(C)文化面での問題については、先住民族ミラルとオーストラリア政府のあいだの交渉が決裂(28日夜)したことを委員会として確認し、失望を表明。
(D)両者にあらためて交渉再開をうながすものの、もし難航状態が続くようであれば、国際社会からの仲介を受け入れるようオーストラリア政府に勧告。
以上4点にまとめたのは、細川の勝手な要約で、委員会の決議文は、自然環境領域(AとB)で12段落、文化領域(CとD)で8段落に及んでいます。釈然としないのは、この決議文のテキストがオブザーバーには配付されない(NGOだけではなく、非委員国の政府にも配付されていない)こと。AB部分については、なんとか某国政府筋から入手しましたが、CDについては、どうしてもくれない。ユネスコ職員と押し問答になりましたが、らちあかず。(ロビーイングの実力のあるACFとTWSも、それにグンジェイッミも入手できていない!) もちろん、会議では妥結した文面が読み上げられましたので、ノートをとって、NGOどうしで照合して、だいたい正確なところは把握できていますが、事務局が委員国用に印刷したテキストを渡してくれないということは、最終日の議事録への記載までにまだ表現の修正がおこなわれるということなのかな。
インターネットで読める報道としては、
http://www.abc.net.au/news/newslink/nat/newsnat-29nov2000-65.htm
http://www.abc.net.au/news/state/nt/metnt-29nov2000-7.htm
http://www.abc.net.au/news/state/nt/metnt-29nov2000-10.htm
http://www.theage.com.au/news/2000/11/30/FFXYC3UU3GC.html
などを御覧下さい。
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以下、各国代表の発言を順番に要約します。
9時45分 カカドゥ国立公園の議題にはいることをピーター・キング議長(オーストラリア)が宣言。
(昨日、予告された合意文書の英語版と仏語版が委員国に配付される。オブザーバーには配付されず。)
オーストラリア(英語)「連邦環境省のロバート・ヒル大臣が、世界遺産保全のためにオーストラリア政府が1800万豪ドルの特別支出をすることを今朝、発表した。世界遺産保全にかけるわが国政府の意気込みを感じとっていただきたい。」
(以下、オーストラリア政府代表の発言者はすべてロジャー・ビール環境省次官)
ブライアン・ウィルキンスン博士(英国、ISPの主席、英語)「世界遺産委員会の要請をうけて国際科学パネル(ISP)がおこなった評価を報告する。(★細川註:この報告内容は文書で入手できています。ユネスコのwebsiteで検索する場合の公文書番号は WHC-2000/CONF.204/INF.20) ISPは、現在、オーストラリア政府の環境アセスの対象とした鉱山設計と操業方式についてのみ、評価をおこなった。(★細川註:つまり、ジャビルカ現地に製錬設備と鉱滓ダムを新規に建設する案、通称JMA = Jabiluka Mill Alternative) 評価の結論としては、JMAによって自然環境におよぼされる悪影響はほとんど無視できるほど小さいということだ。ただし、ERA社が、環境アセスで提示したのと異なる廃水処理方式をとろうとしていることは承知しているが、今後そのような変更がなされるのであれば、あらためてアセスを全面的にやりなおす必要がある。また、ジャビルカ鉱山の操業が終了したあとの50~60年にわたる長期的な影響についても、本報告とは別に評価する必要がある。また、鉱山操業にあたっては、通例、予測されない事態がしばしば発生す
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(以上、約15分の報告。報告書はA4判52ページ英語)
IUCN(国際自然保護連合、ユネスコ助言機関、英語)「IUCNはISPの報告を承認したが、それとは別個にIUCNとしての見解を文書で提出する。(細川註:10段落にわたる1頁の英語文書、入手済み) カカドゥ問題から私たちが学ぶべきことは非常に多い。世界遺産の保全を考える上では、実際に生じている悪影響もさることながら、潜在的な脅威(将来発生するかもしれない悪影響)にもっと注意をむけなければならない。自然生態系への悪影響がないというISPを結論をIUCNは承認するが、これは将来、周辺住民への健康問題が発生しないことが確認されたということを意味しない。また、ERA社の親会社が最近変わったが、新しく親会社となったリオ社は、これまでカカドゥ地区でおこなわれてきた環境保全のための措置をいささかも低質化させてはならない。」
ユネスコ事務局(世界遺産センターのバンダラン事務局長、英語)「今朝、ロジャー・ビール氏(オーストラリア政府代表)からの書簡を受け取った。オーストラリア連邦政府と北部準州政府のあいだに、カカドゥ地区での環境モニタリングにおける連邦政府の権限を強化するむねの合意が成立した、との内容だ。」
アーサー・ジョンストン博士(オーストラリア連邦政府の任命した「監督科学官」= Supervising Scientist、カカドゥ地区のウラン鉱山周辺の環境モニタリングの責任者)「ジャビルカ鉱山の最終的なデザインはまだ確定していない。追加アセスが必要なことは認める。ISPの求める独立科学諮問委員会は、オーストラリア科学院 Academy of Science が任命するオーストラリア人の科学者をあてるべきだ。ISPの求める「包括的な生態系評価・景観影響評価」は、はたして必要性があるのか、疑問だ。鉱山操業にともなって予測される悪影響は具体的・数量的にすべて評価されつくしており、その結果、安全な操業が可能だという結論はゆるがない。先般のレンジャー鉱山の廃水漏えいはカカドゥ国立公園の環境になんら悪影響を及ぼしていない。」
(★細川註:すさまじい発言でしょ。科学と政治が癒着すると、こういう物言いになるという典型です。レンジャーの鉱滓汚水もれ事故については、通信120号を参照)
カナダ(英語)「長期的なモニタリングの体制をただちに発足させるべきだ。データが整わないうちに鉱山の操業を開始すべきでない。」
ベルギー(仏語)「ISPとオーストラリア政府の合意文書を支持する。リオ社は従来の環境保全の手続きを遵守すべきだ。」
オーストラリア(英語)「リオ社にはオーストラリア政府からそのように要請する。しかし、環境モニタリングには予算の制約がともなうことも理解してほしい。」
フィンランド(英語)「独立科学諮問委員会の構成が、オーストラリア人科学者に限られるのであれば、はたして独立性は保証されうるのか?」
オーストラリア(英語)「アカデミーのような権威ある組織に人選をゆだねれば、独立性は担保される。」
マルタ(英語)「オーストラリア政府のこの間の協力的な姿勢と資金提供に感銘をうけている。」
議長(英語)「それでは、配付した合意文書を委員会の決定として採択したい。」
ベニン(仏語)「文言がおかしい。結論部分の書き方をなおすべきだ。」
オーストラリア(英語)「ISPの求める「包括的な生態系評価・景観影響評価」は、資金的にも方法論的にも非常に困難だ。」(★細川註:あれ、オーストラリア政府は合意したんじゃなかったの??)
カナダ(英語)「影響評価をいつまでにおこなうか、明記すべきだ。」
ウィルキンスン博士(英語)「合理的に可能なかぎり速やかに(as soon as reasonably possible)、との文言を挿入することでどうか?」
南アフリカ(英語)「住民への健康リスクは、はたしてどうなのか?」
ジョンストン博士(英語)「すべてのリスクは具体的・数量的に把握されたと申し上げたはずだ。」
議長(英語)「では、合意文書を採択してよろしいですね。」
ベルギー(仏語)「合理的に可能なかぎり、などと書くと、かえって曖昧で、勧告の効力が弱まってしまう。そのような文言を挿入すべきでない。」
カナダ(英語)「え、どうしてですか。そんなことありませんよ。」
モロッコ(仏語)「もうこんな膠着した議論を続けているべきではない。早くきりあげようではないか。」
ベルギー(仏語)「合理的に可能なかぎり、という慣用句はしばしば対応を遅らせる効果を生むものなのだ。」
モロッコ(仏語)「そういった細かいことは、国際条約文書の作成に慣れている専門家にゆだねるべきではないか。」(★細川註:ユネスコ事務局にあずける、という意味)
議長(英語)「いまウィルキンスン博士から、さきほどの文言(合理的に …)を撤回したいとの意志表示があった。さきほどのベニン代表の示唆した修正のみを加えて、委員会決議として採択したい。」
10時40分、議長の3度目の催促で、ようやく合意文書が採択される。
議長(英語)「次に、文化保全措置の領域を討議したい。ユネスコ事務局から、ビューロー会議での合意文書を説明してもらう。」
バンダラン世界遺産センター事務局長(英語)「ビューロー会議の合意文書では、オーストラリア政府と伝統的土地権利者(★細川註:ミラル・アボリジニーのこと)との交渉が進んでいることを歓迎する、となっていたが、残念ながらこの交渉は昨夜、決裂した。これをうけて、土地権利者であるイボンヌ・マルガルラ氏からユネスコあてに昨日づけで書簡が届いた。その内容は、連邦政府との交渉は決裂した、事態を打開するため、ミラル氏族は世界遺産委員会の助言を求める、本会議での3分間の発言を求める、というものだ。」
(★細川註:この書簡の写しは、29日朝、総ての委員国と多くのオブザーバーに配付された。細川も入手済み。おって翻訳の予定。)
フィンランド(英語)「交渉が決裂したということならば、事態はまったく変わったということだ。ビューローの合意文書は意味を失った。」
ICOMOS(ユネスコ助言機関、英語)「私たちは時限爆弾をかかえているようなものだ。カカドゥ国立公園は、当初は岩絵の価値にもとづいて世界文化遺産に認定されたが、その後、「存続する文化」(living culture) という基準にも該当することが追加認定された。政府とアボリジニーの交渉は、完全に決裂したが、これは今回が初めてのことではない。「存続する文化」の保全計画の策定は、生きている当の人々の協力があってはじめて可能なのだ。オーストラリア政府がそのことを理解できず、当事者能力を欠いた対応をくり返してきた以上、国際社会からの介入が必要だ。つまり、さきほど合意をみた自然環境への影響評価と同じ方式をとるべきではないか?」 (★細川註:ISPと同じような国際チームを派遣して調査をおこなう、という意味)
タイ(英語)「ミラルの人たちの数はあまり多くないときいている。そうであれば、これはあくまで国内問題なのではないか。世界遺産委員会は内政干渉してはいけない。」
(★細川註:昨日来、アドゥーン博士の発言はどうもピントはずれで、期待外れです。)
ハンガリー(英語)「先住民族の文化の価値は、世界が共有すべき普遍的価値なのだ。世界遺産委員会は、オーストラリア政府とアボリジニー土地権利者の対話を仲介(facilitate) するべく積極的にはたらきかけるべきだ。」
オーストラリア(英語)「たしかに交渉は決裂したが、オーストラリア政府の立場は、ビューローの合意文書の線にそったものだ。すなわち、文化保全策を策定するための新しい枠組みを協議する、という試みを放棄してはいない。アボリジニーおよびその他の国内当事者の協力をえて、いつでも交渉を再開する準備がある。交渉の決裂は、誤解にもとづくものだ。」
(★細川註:「その他の国内当事者」とは、鉱山会社、北部土地評議会、そして、両者の合意をえて任命される仲介者を意味する。実は、この「仲介者」が曲者で、すこしややこしい事情があるので、別の号であらためて解説します。)
ひき続きオーストラリア「北部準州政府は、監督科学官(SS)の権限強化に同意した。リオ社は、従来とおりの厳格な環境モニタリングを継続することを約束する声明を今朝、発表した。京都会議とパリ会議で世界遺産委員会からオーストラリア政府に要請された諸事項は、「文化保全策の作成」以外はすべて達成された。残る「文化保全策の作成」は、リオ社の参加をえておこないたい。ジャビルカ鉱山の操業は、当面はじまらないのだから、十分な時間的余裕がある。交渉に際しては双方に善意(good will、交渉を成功させるために協力する意志、という意味)があることを世界遺産委員会はぜひ認めてほしい。アボリジニーとの国内協議を注意深くおこなっていくので、静観していただきたい。」
南アフリカ(英語)「しかし、現実には対話はたびたび暗礁に乗り上げている。そのような場合には、外部からの仲介が必要なのではないか。カカドゥ国立公園はオーストラリア人だけのものではない。私たちは世界遺産の保全のために話し合っているのだ。さきほどのICOMOSの提案を南アフリカは支持する。オーストラリア政府は、第三者による仲介の必要性を真剣に検討すべきだ。第三者は、政府が任命するのではなく、また、先住民族が指名するものでもない。」
フィンランド(英語)「南アフリカの発言を強く支持する。ICOMOSの提案は理にかなっている。」
カナダ(英語)「対話が決裂したという知らせは、とても残念だ。私たちはもう何年もカカドゥの問題を話し合ってきた。当事者交渉の決裂について委員会が失望していることを、決議文書に明記しなければならない。また、オーストラリア政府とアボリジニーの双方に対して、対話の再開を強くうながしたい。」
ハンガリー(英語)「さきほど、ミラルの人から発言の要請があった筈だが、どうなったのか。委員会として決定を下す前に、ミラルの発言をうけたい。」
パプアニューギニア(英語)「世界遺産委員会でわが国政府が発言するのは初めてです。オーストラリア政府がいろいろな努力を払っておられることには敬意を表します。いまここで最も留意すべきことは、「生きた文科」の問題であるということです。カカドゥのような問題は、ひろく大平洋地域のあちこちで見られます。古典的ケースというべきでしょう。すべての原因は鉱山開発にあることは明らかです。カカドゥ国立公園を世界遺産に認定した際に、すでに鉱山の存在は委員会に知れていた筈です。問題がおこることは最初から分かっていたというべきではありませんか。大平洋地域でこのような問題がくり返されることを、わが国政府は大いに憂慮しています。」
(★細川註:パプアニューギニアの主席代表は、国立博物館の館長さんです。)
南アフリカ(英語)「対話は永遠に続けているというわけにはいかない。一定の期限を設定して交渉の成果を出すような枠組みが必要だ。」
議長(英語)「ミラル代表者のイボンヌさんは、公式オブザーバー資格をえていますから、委員の皆さんから異議がなければ発言をすることを議長として許可することができます。いかがですか?」
(異議なし)
11時15分から1分間。イボンヌ・マルガルラの発言。
「今日は英語で話します。ちょっと、あがってます。うまく話せるかしら。
ジャビルカには djang(ジェン)があります。たいへん危険です。
政府は私たちの言うことを信じてくれません。
政府は私たちが嘘を言っていると言うのです。
ジャビルカに djang などないというのです。
聖地はとても強いのです。
私たちはあそこに djang があると信じています。
政府は私たちを助けてくれません。
私たちには皆さんの助けが必要です。」
(★細川註: djang は神話の精霊が宿る場所のこと。「聖地」)
ICOMOS(英語)「やはり外部組織が交渉に関与すべきだ。ICOMOSとしては、仲介の準備をする意向がある。」
ICCROM(ユネスコのもうひとつの助言機関、仏語)「委員会の決定の文言は明確でないといけない。外部からどのような関与をするのか、具体的に示す必要がある。」
オーストラリア(英語)「ミラル側は、ロバート・ヒル環境大臣がミラルの対応を批難したとしているが、「ミラルが事実を述べていない」とする発言を大臣がした事実はない。」
(★細川註: 前夜の交渉は環境大臣とグンジェイッミ法人のあいだでおこなわれた。交渉の席上、環境大臣は聖地の具体的所在をミラルが明かさないことに業を煮やして、聖地の存在そのものに疑問を呈する発言をおこなった。)
議長「15分間の休憩に入りますが、この案件はまだ結論がでていません。したがって、会議場の外の人たち(★細川註:マスコミのこと)に議事の内容について話すことを禁止します。」
11時20分から、結局45分間の休憩となった。イボンヌさんは、ようやくホッとしたような表情に。休憩のあいだに、カナダを中心に、委員会決定の文案が作成される。
12時5分再開
議長(英語)「カナダ政府の努力によって、これまでの議論をふまえた委員会決議の草案がまとまりました。読み上げます。」
草案(8項目)の骨子:
1)ウラン鉱山開発によって彼らの文化・社会が脅かされるかもしれないとの懸念を先住民族がいだいていることに留意する。
2)文化地図の作成と文化遺産保全計画の策定が、現時点では不可能であることを認識する。
3)上記の策定作業に助力する意志をICOMOSが表明していることに留意する。
4)オーストラリア政府が、策定にむけた新たな過程にはいる用意があることを確認する。
5)現時点で政府と先住民族のあいだの対話が中断していることに留意する。
6)対話の継続が重要であることを再確認する。
7)政府と先住民族が対話再開にむけて努力するよう促す。
8)対話の中断が続く場合は、委員会はオーストラリア政府および先住民族の双方に対して、調停者の介在する対話にはいることを検討するよう要請する。そのような対話は第25回世界遺産委員会(2001年11月)の前に始まっていることが望ましい。
議長(英語)「この問題ばかりにあまり時間をとっている訳にはいきません。いまの草案に対して委員国の合意を求めます。」
モロッコ(仏語)「8がよく分からない。もう一度、読んでいただきたい。」
議長(英語)「すみません、読み方が早すぎました。」(再度、読み上げ)
コロンビア(英語)「カカドゥについて科学と文化を別々に議論してきたが、複合遺産としての統合性(integrity) がちゃんと評価できていないのではないか。」
ベルギー(仏語)「書かれたテキストを配付しないで、読み上げだけで決定を下すことはできない。国際会議の慣習に反している。」
モロッコ(仏語)「ベルギーに同意する。正確さを欠いたやり方だ。」
南アフリカ(英語)「イボンヌさんが発言したことが全く反映されていない。委員会として彼女の発言にきちんと留意すべきだ。」
議長(英語)「それは議事録に記載する。テキストについては、フランス語への翻訳も含めて、今から書記局が準備するので、それが届いた時点であらためて審議したい。」(12時15分)
(ということで、いったんカカドゥの話はきりあげ、次の議題にはいる。次の議題は、地域ごとの遺産保全の計画について、ということで、今回は東アジア・東南アジア地区の計画が審議される。そのなかで、日本政府代表団からの説明があり、要するに資金提供をいたしますよ、ということ。しかし、その発言(英語)の冒頭「これまでの議長の采配がたいへんお見事であることを賞賛します」などと言うので、のけぞってしまった。いったい何を聞いておったのだ、文化庁のお兄ちゃん!)
13時15分、テキストの英語版/仏語版が委員国にのみ配付される。
議長(英語)「委員のコメントを求めます。」
ベルギー(仏語)「第8項のフランス語の表現が分かりにくい。」
議長(英語)「たしかに、そこは翻訳の人が苦慮してました。」
ベニン(仏語)「第7項のフランス語の動詞と時制をあらためる必要がある。」
モロッコ(仏語)「第8項で、仲介役を誰が提供するのか明らかでない。」
南アフリカ(英語)「第1項で、脅かされるかもしれない(threat still might exist) とあるが、伝統的土地権利者の発言は、危機の存在を明確に述べたのだから、かもしれない(might) は削除すべきだ。」
議長(英語)「そこの表現は、ビューロー会議での合意の文面を用いたまでだ。」
ハンガリー(英語)「南アフリカを支持する。さらに、委員会はミラル代表の協力に感謝する、というような文言があってしかるべきだ。」
オーストラリア(英語)「第8項の文言はベルギーの意見をいれて直したい。」
ギリシャ(仏語)「 …」(第2項のフランス語の文言について注文/聞き取れず)
書記局(仏語/英語)「(ギリシャ代表の指摘に応じたうえで)(第1項の) might は削除します。」
議長(英語)「では、そのような修正を加えた上で委員会決議として採択します。ミラル代表のご協力に感謝します。」
13時30分、カカドゥ国立公園の議題、終了。
やれやれ疲れた。
NGOはロビーに出て評価会合。みな浮かぬ顔をしている。もっと悪い結果がでる可能性があったのだから、委員会決議には評価できる部分もある。だが、テキストが配られないなど、不透明さがつきまとい、最終日(土曜日夕方)の議事録採択の際に、もうひと悶着ありそうな気配もある。ともあれ、2時から記者会見をひらくので、意見交換と調整をおこなう。ミラルは、みな厳しい表情で鳩首会談。
決議の評価については、号をあらためて分析したいと思います。
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